Wonderful Researchers
長崎大学工学部の女性教員6名からお話を聞きました。(2024年6月時点の内容です)
安武 敦子 教授
所属(工学部):構造工学コース
所属(大学院):共生システム科学コース(スマートシティデザイン分野)
専門分野:建築計画
長崎大学着任時期:2010年4月
未来の工学女子たちへメッセージ
工学女子が増えることで、ものの形や使い方が変わっていくと思います。日ごろの生活のなかで、使い勝手が悪い、もっと良いものはないのか、もっと素敵にできるのにと思っている人は、ぜひ工学分野に足を踏み入れてください。社会を少しずつ変えましょう。
建築計画分野が専門で、そのなかでも居住環境について研究をしています。単体の家から地域までを範囲としています。伝統的な建物をどう残すか、空き家問題にどう対応すれば良いか、離島など人口減少地域の地域社会をどう運営したら良いか、災害後の仮住まいや復興住宅をどう支援すれば良いかなどをテーマに学生と一緒に研究しています。 研究だけでなく実際の建物の保存活動も行っていて、地域の方々と「ながさきビンテージビルジング」というグループを作って、ワークショップやイベントなども実施しています。
建築学は工学部にある大学が多いですが、芸術的な側面や社会学、民俗学、福祉なども含むため、芸術学部にある大学、建築学部として独立している大学などもあります。私は現在は工学的なアプローチはしていませんが、工学部を経験したことによって力学を勉強し、建物を見ると力の流れが想像できるようになりました。古民家なども、このあたりが危なそうなど分かるようになり、役立っています。
以前、ダイバーシティ推進センターのセンター長をしたこともあり、工学系の女性が少ないことを再認識し、今現在の目標は工学分野に女性技術者が増えることです。日本は性別だけでなく国籍も思考もバリエーションが少ない企業がまだまだ多いと思います。第一歩として企画や決定の場面に女性が増えて欲しいと思います。さらにその先にさらなる多様性(ダイバーシティ)が広がると良いなと思っています。個人的としては大学を辞めたら、伝統的な建物の保存に関わるような仕事をしたいと思っているので、少しずつ準備をしているところです。
工学は実際の社会で役立つことを常に考えている分野だと思います。大学内で他の分野の先生とつながったり、民間企業と連携していくことが必要だと思います。特定のクラスター内(例えば気の合う同級生のグループ)にいると楽ですが客観性が損なわれます。多くの人と話したり、学生なら旅行をしたり、アルバイトをしたりしながら、いろんな立場の人の気持ちが想像できるようになって、身近な課題を感じたり、解決に向けて一歩進もうとすることが大切だと思います。
作田 絵里 教授
所属(工学部):化学・物質工学コース
所属(大学院):共生システム科学コース (化学・物質科学分野)
専門分野:光化学
長崎大学着任時期:2015年1月
未来の工学女子たちへメッセージ
世の中の身近なものは科学の力で出来ています。それは様々な科学・工学の力が組み合わさってできたものがほとんどです。少しでも気になることがあったら、是非、興味をもって調べてみてください。そこから様々な事がわかりますし、それをきっかけに色々な世界を見ることができます。
光を吸収、発光する新しい化合物を合成し、その物質の光に関する性質を、いろいろな装置を使って測定、検証しています。例えば、ディスプレイに使用されている発光性の化合物がより綺麗に長く光るにはどうしたらよいかなどを研究しています。
世の中で使われている様々なモノについての原理を知ることができたり、より使いやすくするためにはどうしたらよいか、住みよい環境を作るための発見や工夫をすることができます。例えば私の研究内容ですと、スマートフォンやタブレットに使われているディスプレイをどうすれば薄くすることができるか、より鮮明な色が出せるか、消費電力を少なくすることができるか、などを考える必要がありますが、そのための知識を身につけることができます。
今の目標の一つは、一つの分子で様々な色を出すことができる“マルチカラー発光分子”の開発です。基本的には一つの分子は一つの色しか出すことができません。様々な色を出したいときには、それぞれの色を発する何種類かの分子を混ぜて調整します。それをしなくても、一つの分子で周りの環境の変化に応じて色が変わる “マルチカラー発光分子”を作りたいと思って研究しています。
研究を盛り上げていくためには、個々の努力も必要ですが、みんなで意見や知恵を出し合って、話をすることでより良い解決策を見つけ、新しい方向性を発見することも重要だと思います。
源城 かほり 教授
所属(工学部):構造工学コース
所属(大学院):共生システム科学コース(スマートシティデザイン分野)
専門分野:建築環境工学
長崎大学着任時期:2015年4月
未来の工学女子たちへメッセージ
工学部は男子学生が多いイメージがあるかと思いますが、建築分野のように女子学生が比較的多い分野もあります。インクルーシブな時代ですから、性別や年齢、人種に関係なく、すべての人間にとって使いやすいモノづくりや空間づくりが必要です。あなたの感性をもっと取り入れて、新しいイノベーションを起こしてみませんか?
子供からお年寄りまですべての人々が快適で健康な生活を送るために必要な室内環境とは何かについて、いろいろな側面から研究しています。住宅やオフィスの快適な温度を屋外の気温から予測するための研究や、室内緑化が人間の心身に与える影響についても研究しています。日本は地域による気候差が大きい国ですが、各地域の気候に応じた自然エネルギー利用や建物のデザインの工夫、住まい方の改善などにより、脱エネルギー化を図る方法についても研究しています。
私たちが過ごしている室内の温度、湿度、気流など目に見えない室内環境の実態を測定することによって数値として見える化し、人間にとっての快適や健康を科学的に評価できることはとても興味深いです。IoT技術の進展によって、人間を取り巻く環境だけでなく、人間の生体反応をウェアラブル端末で簡単に測定できるようになってきました。このように、工学部ではモノづくりだけではなく、環境づくりに関わる研究を通して、QOL(クオリティオブライフ)を高めていくことができます。
住環境を改善して、もっと住みよい街づくりに貢献したいです。長崎のように温暖な地域では、寒い地域に比べると、建物の断熱性能が低い場合がほとんどなので、エネルギーの浪費に繋がっています。現状でも、住まい方を工夫することでもっと省エネルギー化できる余地は残っています。また、自然エネルギーをもっと活用していく工夫も必要です。
学会発表や論文発表も含め、メディアを通じての広報活動が必要ではないかと思っています。まずは研究成果を社会にどのように活かしていくかを考えることが重要だと思います。
澤井 仁美 准教授
所属(工学部):化学・物質工学コース
所属(大学院):共生システム科学コース (化学・物質科学分野)
専門分野:生命金属科学、生物無機化学、蛋白質科学
長崎大学着任時期:2022年5月
未来の工学女子たちへメッセージ
みなさんは日本の工学女子の比率が、OECD(経済協力開発機構)加盟国38か国のうち「最下位」であることをご存じでしょうか?これは大昔のことではなく、なんと2022年のデータです! 一方で、米国シリコンバレーで働くエンジニアの男女比は女性の方が多いですし、数学の成績をみても女子生徒の方が優位な場合もあります。つまり、女性の頭脳は理数系に弱いわけではなく、「最下位」で残念な日本の現状を改善できるかどうかは、みなさんのやる気しだいです。理系とか文系という枠にとらわれずに、自然・環境・人と社会の営みなどに興味があれば、ぜひ「未来の工学女子」になって欲しいです。私は高校では文系コースでしたが、本当に面白いと思うことを突き進めてきたら、いつの間にか立派な工学女子になれましたから!すべての生物は、体内に微量に存在する「金属」を使って生命を維持しています。その多くは食物から栄養素として体内に取り込まれ、様々な「酵素(タンパク質)」に結合した状態で機能しています。私は、ヒトの金属栄養素として最も重要な「鉄」に注目し、鉄を体内で安全に効率よく利用するために働く様々なタンパク質の形と機能を精密に調べています。からだの中の「金属」は多すぎても少なすぎても病気になるため(たとえば “鉄欠乏性貧血” は月経のある女性にとって深刻!)、それに関連するタンパク質の機能と形をきちんと理解することで、病気を治すための「新しい医薬品のデザイン」や、食品から安全に効率よく金属栄養素を摂取できる「栄養強化素材の開発」を目指しています。
工学部では「モノづくり」の基礎となる知識や技術を総合的に身に着けて、社会に貢献できる人材を育てることを目指しています。高校までは数学・物理・化学・生物といった区分で学びますが、工学部では電気や機械から(私の研究テーマのような)バイオ・医薬系まで、幅広く学び、社会の問題に対する具体的な解決のための「モノづくり」を提案できるような教育・研究を行っています。将来的に、自分が考案し開発した “モノ” が社会の役に立っている姿を実感できるのが、工学部の魅力です。
からだの中にある金属は、どのように制御され、どれくらいの量が病気と健康の閾値になるのか、適した量を補うためにはどうすればよいか・・・ということが、個人差が大きいこともあり具体的には明らかにされていません。それらを明らかにすることができれば、適した金属を、適した量、適した方法で補えるようになり、金属が関与する疾患の根本的な解決につながると考えています。つまり、金属が関与する疾患や世界人口の約30%を苦しめる最も深刻な微量栄養素失調症としてWHO(世界保健機関)が警告する “鉄欠乏性貧血” に対して、これまでにはない画期的な治療薬や予防法の開発を医⼯連携研究により成し遂げたいです。
研究と社会の接点を具体化して新たな展開を切り拓くために、大学と企業あるいは公的機関との連携を強化するシステムが、もっとたくさん必要だと思います。たとえば、大学での基礎研究と企業での応用研究の橋渡しをするための大学発ベンチャー会社への投資、大学院生と企業の研究員の交換による双方の知識と技術力の強化を図ることなど。それらのリーダーとして、女性の技術者や研究者が活躍できれば、日本の工学系研究は国際社会に一目置かれる存在になると思います。
DAO THI NGOC ANH 准教授
所属(工学部):化学・物質工学コース
所属(大学院):共生システム科学コース (化学・物質科学分野)
専門分野:ドラッグデリバリー、バイオセンサー、ハイブリッドナノ材料、高分子化学、無機化学
長崎大学着任時期:2022年11月
未来の工学女子たちへメッセージ
思いを持ち続け、性別による固定観念に惑わされて、目標を達成することをあきらめないでください。工学は、成功できるのは誰かという先入観よりも、献身と革新が勝る分野です。挑戦することは成長と継続的な向上へのチャンスです。自己の向上を続けることが、このダイナミックな分野で成功するための鍵です。工学分野で女性として持つ独自の視点は、限界ではなく強みとなります。創造性と問題解決能力を活かして、専門分野へ大いに貢献しましょう。問題や挫折に直面しても粘り強く対処し、夢を叶えるための足掛かりとしましょう。(原文) I would like to say to the future females of engineering field that remember to stay true to your passion and never let gender stereotypes deter you from achieving your goals. Engineering is a field where dedication and innovation shine brighter than any preconceived notion of who can succeed. Embrace challenges as opportunities for growth and continuous improvement. Continuous self-improvement is key to thriving in this dynamic field. Remember, your unique perspective as a woman in engineering is a strength, not a limitation. Embrace your creativity and problem-solving abilities to make meaningful contributions to the field. Be resilient in the face of challenges and setbacks, and use them as stepping stones toward achieving your dreams.
特殊な生分解性の生体高分子、シルクタンパク質を用いて、ナノ医薬を開発しています。カイコのシルクは繊維産業において長い歴史があり、近年は生物医学的な応用が注目されています。シルクタンパク質は、細胞増殖を促し、生体適合性・生分解性・抗炎症性に優れるなど、生物医学研究において非常に潜在的な特性を持っていることがわかっています。当研究室ではフィルム、粒子、ハイドロゲルなど、多くの種類のシルク材料を医薬用に製造することができます。
(原文)My research focuses on a special biodegradable biopolymer, silk protein, to develop nanomedicines. Silkworm silk has a long history in the fabric industry, and recently received great attention for biomedical applications. Silk protein was found to possess very potential characteristics for biomedical research, for example, it promotes cell proliferation, it has high biocompatibility, biodegradability and anti-inflammatory. We can produce many types of silk materials for pharmaceutical use, including films, spheres, and hydrogels.
工学は今日の世界におけるイノベーションと問題解決の最前線にあります。工学は理論的な知識と実践的な応用を結びつける分野であり、学生に実世界での課題に対する具体的な解決策を生み出す機会を提供します。工学教育は、分析的思考や、問題解決能力、共同作業能力を学生に身に付けさせます。これらは、さまざまな業界で高く評価されているスキルです。さらに、工学を学ぶことによって、持続可能なインフラの設計から最先端のテクノロジーの開発まで、幅広いキャリアチャンスへの扉が開かれます。社会に対して重要な影響を与える潜在的な力が工学教育にはあります。
(原文) Engineering is at the forefront of innovation and problem-solving in today’s world. It’s a field that bridges theoretical knowledge with practical applications, offering students the opportunity to create tangible solutions to real-world challenges. Engineering education equips individuals with analytical thinking, problem-solving skills, and the ability to work collaboratively—skills that are highly valued in diverse industries. Moreover, studying engineering opens doors to a wide range of career opportunities. From designing sustainable infrastructure to developing cutting-edge technologies, engineers play a pivotal role in shaping the future. The potential to make a meaningful impact on society is a compelling aspect of pursuing engineering education.
(原文)My prospects and dreams in the field of engineering involve making substantial contributions to sustainable development and technological innovation. I aspire to lead impactful research projects that address pressing issues in healthcare technologies. Collaborating with interdisciplinary teams to develop scalable solutions that positively impact society is a key goal. Additionally, I am passionate about nurturing the next generation of engineers, particularly women in STEM. I envision creating mentorship programs and initiatives that promote diversity and inclusion in engineering education and research. Building a supportive community where aspiring engineers—regardless of gender or background—can thrive and succeed is integral to my long-term goals.
工学系の研究を促進するためには、好奇心、協力、そして継続的な学びが不可欠です。部門や機関をまたいだ学際的に連携することによって、アイデアの交換が促され、技術は急速に進展するでしょう。
(原文)To stimulate research in engineering, fostering a culture of curiosity, collaboration, and continuous learning is essential. Encouraging interdisciplinary collaboration across departments and institutions promotes the exchange of ideas and accelerates technological advancements.
大島 多美子 教授
所属(工学部):電気電子工学コース
所属(大学院):共生システム科学コース (電気・機械システム分野)
専門分野:プラズマ材料科学
長崎大学着任時期:2023年4月
未来の工学女子たちへメッセージ
私は高校受験のときに、数学が好きで他の人とは違う道に進みたいと思い、高専(高等専門学校)に進学しました。そこで工学の世界に飛び込んだのです。勉強は決して簡単ではなく、男性が多い環境でしたが、性別に関係なく対等に接してきました。工学の道に進むと、どんな会社に入れるのか、どんな仕事をするのか、わからないことがたくさんあり、自分の将来像を描くのが難しいかもしれません。しかし、多くの女性がエンジニアや研究者の道に進み、結婚や出産を経験しても仕事を続けています。そして、時代とともにその環境も整い始めています。どんな仕事も大変ですが、工学系の仕事は女性が自立して一生続けられるものであり、活躍できるチャンスがたくさんあります。自分の可能性を信じて、一緒に新しい道を切り拓いていきましょう!プラズマ技術を用いた材料を創り出すための研究や、スマートフォンやパソコン、電気自動車に用いられているレアメタル(希少金属)の代わりとなる材料を開発するための研究を行っています。固体・液体・気体と並ぶ物質の第4の状態であるプラズマは、自然界ではオーロラや雷として目にすることができます。また、プラズマは人工的に作ることもでき、蛍光灯や空気清浄機など、私たちの身の回りの生活用品に活用されています。一方、レアメタルは特定の国に産地が偏っており、日本では輸入に頼るしかありません。そのため、国内にも豊富に存在し、入手しやすい資源を用いたレアメタルの代わりとなる材料の開発が重要となってきています。そこで、安価で速やかに材料の探索が可能な粉体スパッタリングという成膜技術を活用して、例えばレアメタルの代わりとなる材料を用いた透明導電膜(タッチパネル等の透明電極に利用)や、室内でも有機物の分解や細菌を不活化できる可視光応答型光触媒の新しいドーピング材料の開発を行っています。
工学部では、学びの先に研究があります。実際に役立つ知識や技術を学び、それを研究で応用することが工学部の大きな魅力です。研究を通じて課題を解決する力を身につけるために、理論と実践を組み合わせた工学的アプローチが重要です。この過程で新しい発見や技術を生み出すことは貴重な経験となります。さらに、研究の成果を論文や学会発表を通じて広く社会に伝えることで、科学技術のみならず社会全体の発展にも貢献することができます。工学部で学ぶことは、自分自身の成長にもつながると同時に、社会的にも大きな意義があると思います。
今後の目標は、研究テーマであるプラズマと粉体を用いた代替材料や新しい材料の開発技術を確立することです。将来的には、この技術を使って効率的に材料を探索する方法や、新しい材料を作るサービスを提供するビジネスにチャレンジしたいと考えています。また、限られた資源を有効に活用する社会の実現に貢献したいと思っています。
大きな注目を集めるようなインパクトのある研究テーマが必要かもしれませんが、それだけが全てではないと思います。工学系の研究は大変幅広く、基礎から応用まで多岐にわたっています。応用研究は、他の研究者や企業と共同で行うことが多く、産業に役立つ技術や製品の開発のために重要です。一方、基礎研究は、長い時間をかけて未知のことを発見したり解明したりするもので、地道に続けることでイノベーションを生む可能性があります。これらの研究をさらに盛り上げるためには、知的財産権(特許)を意識しながら、社会に向けて情報を発信(PR)することが大切だと思います。